2016年1月16日(土)
「何がかくされているかな、探してみよう、鉛筆で」
きみのまわりはたくさんの「もの」でいっぱいだ。そこには自然のものもあれば、人がつくったものもある。いろいろなかたちをして、さまざまな色を持ち、重さも固さもちがうものたち。においだって、さわったときに感じる温度も異なっている。そして大切な手ざわりも多様だったね。きみに皮膚(ひふ)があるように、「もの」にも皮膚がある。その皮膚の変化を感じながら、今回はかたちを見つけたね。
きみたちが座ったところには大きな白い紙がしいてあった。ゆっくりと、そして、そっと紙を手でふれてみると、何かがあることを感じたね。床とも違うし、床をおおっていた紙の手ざわりでもなかった。きみはなんだか分からなかったけれど、その上にもう一枚紙を置いて、えんぴつを手にして、こすってみた。するとどうだろう、そこには、ウサギがいたんだね。となりのお友だちはカエル。むこうではおサルさん、そして「バスだ」「電車だ」「ミッキーだ」といろんな声が聞こえてきた。さあ、みんなは一生懸命小さな紙を手に持って、床の上をさわって、探して、こすっていたね。楽しい時間。同じものをこすっても同じものにならない不思議。輪郭(りんかく)を探したきみは、かたちに皮膚を与えていたんだね。
私たちはたくさんの「もの」に囲まれて生活をしています。「もの」には自然のものもあれば人工の、人間が作り出したものもあります。いろいろなかたちをして、さまざまな色を持ち、重さも固さも異なり、匂いだって、手にふれたときの温度、そして手ざわりも違います。しかし、多くのものはその正体を現さずに何かに包まれて同じ皮膚をしてしまっています。たとえば、スーパーマーケットで見かけるラップに包まれた魚のように。人に皮膚があるように、「もの」にもそのもの独自の皮膚があります。その皮膚のいろいろを感じ、想像しながら、今回はかたちを見つけ、自分の感じた皮膚をかたちに与えました。
こどもたちが座るところには大きな白い紙が敷いてありました。彼らはそっと紙を手でふれます。すると紙の下に何かがあることを感じることになります。床とも違うし、紙の手ざわりでもない何かです。彼らにはなんだか分かりませんが、その上にもう一枚紙を置いて鉛筆を手にして擦ってみました。するとそこには、ウサギやカエル、猿、そしてバス、電車などが浮かび上がってきます。さあ、みんなは一生懸命小さな紙を手に持って、床の上をさわって、探して、擦っていきます。同じものを擦っても同じものにならない不思議を見いだし、「もの」の持つ皮膚の多様性に想いを馳せていただけたらと考えています。
講師: | 海老塚耕一(美術家、本学教授) |
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場所: | 多摩美術大学美術館 |
対象: | 未就学児~小学3年生 |
人数: | 40名 |