講座レポート

「名所図会で歩く 特別講座―『都名所図会』を片手に、京の街の今昔を楽しむ」
海老塚耕一さん

【2019年9月26日(木) 全1回】

江戸時代、1780年に刊行され、京都の当時の風景を豊富な鳥瞰図や風俗図などの挿絵で描き、広い支持を受けた『都名所図会』。あまりの人気に、『拾遺都名所図会』という続編も刊行されています。今回の講座では江戸を離れ、当時の都・京の街を歩きます。

今や世界的観光地となり久しい京都。その賑わいは素晴らしいものです。しかし、今回散策地に選んだのは、そのなかでも観光客もあまり来ないような静かなお寺や神社の数々。川沿いや商店街、時には電車に揺られながら、京都に今も残る都の面影を探していきました。

今回訪れたなかに、水に深い関わりのある地がいくつかありました。なかでも印象的だったのが、2か所目に訪れた御香宮神社(ごこうのみやじんじゃ)。名水の地として江戸時代当時より有名です。神社の名の由来ともなっている、境内に湧き出る「御香水」。今から1100年程前の平安時代に湧き出し良い香りが四方に漂い、これを飲むと病気がたちまち治ったのだとか。当時のものは一度枯れてしまいましたが、昭和に別の場所に復元され、環境省の「名水百選」にも選ばれています。現在も多くの人がわざわざ容器を持って汲みに来る、今も昔も地元の人に親しまれている名水のようでした。

商店街を進み、ふいに突然現れた小さなお寺、欣浄寺(ごんじょうじ)。かの有名な小野小町と、彼女に恋い焦がれた深草将軍にゆかりのある名所です。欣浄寺の南西にあった「将軍通ひ道」を通り、百夜通えば恋が叶うはずが、あと一夜というところで夢半ばで将軍は命を落とします。将軍が小町を想うあまりに流した将軍の涙が溜まってできたといわれる「墨染井」や、二人が眠ると言われる塚も境内に現存していました。

後半に訪れた、藤森神社(ふじのもりじんじゃ)。「駈馬(かけうま)」や、こどもの日に飾る「兜飾り」の起源で有名な神社です。駈馬の様子は名所図会にも大きく描かれており、おそらく馬が駆け抜けることを想定した直線の長い参道がとても印象的でした。

受講生の方々も口にされていましたが、今回訪れた場所は、なかなか自分では訪れる機会がないような、隠れた名所の数々。さすが京都、どこを訪れても古き良き日本人の姿が今もなお引き継がれていて、一種の感動を覚えます。

今回は、散策シリーズのなかでの『番外編』として、江戸を離れ、京都を舞台に歩きましたが、ここに限らず日本各所には江戸の時代の心意気が生きる素敵な名所がたくさんあるはずです。今回の旅をヒントとして、みなさんの今後の旅に更なる発見や驚きの扉を開けることになったらうれしく思います。

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