企業の人事担当者・卒業生に聞く/メディア

確かな技術と高いコミュニケーション能力でデザインチームの中核を担う多摩美生

株式会社日本テレビアート

日本テレビグループの総合デザインプロダクション。日本テレビの番組、イベント、映画などにおける美術、照明、テロップ、グラフィックデザイン、WEBなど、デザインに関わるほぼすべてを手掛けている。
https://www.ntvart.co.jp/

2021年12月掲載


エンタメ系の映像美術を支えるのは、トレンドに対する嗅覚の鋭さとアイデアを形にする推進力

大竹 潤一郎さん
大竹 潤一郎さん

株式会社日本テレビアート
コンテンツデザインセンター
センター長
デザイン開発部
部長

日本テレビアートには美術だけではなく、照明、テロップ、グラフィックデザイン、CG制作、校正校閲といった文字校正や音効の部門があり、全部ではないですが日本テレビが主催するイベントのデザインを請け負っています。僕が担当している美術デザイン部は番組のセットのデザインを手掛ける部署で、スタッフの約9割が美大出身者ですが、多摩美卒業生は全体の4割近くにのぼります。『news zero』や『世界一受けたい授業』のセットを担当した高井美貴、ドラマ『真犯人フラグ』や『3年A組-今から皆さんは、人質です-』の美術を担当した高橋太一など、まさに今、現場の中心で活躍しているスタッフが多いですね。

実際の見え方をシミュレーションしながら、より高度な画づくりを

入社後は4ヶ月程度研修があり、図面を描くツールとして使用している3D CAD(パソコンを使って仮想の3次元空間上に立体的な形状を設計すること)を習得してもらいます。昔は手描きだけでセットの完成予想図を描いていましたが、3D CADだと「MC(司会者)に寄るとこう見える」「上手と下手(かみてとしもて=客席から見て右と左のこと)、それぞれから撮ったらこうなる」というような、カメラで撮ったときのシミュレーションができるんですよね。演出サイドからもそのような画を求められるので、できることが増えて内容が高度になった分、デザイナーが作るイメージの量もかなり増えているのが現状です。他にも小道具などの作成も多く労力がかかるため、番組に対して4人程度のチームで運用しているのですが、CAD研修のあとはそのチームについて先輩から現場での動き方を学び、ドラマ、バラエティ、報道、歌番組など、いろいろな番組に携わってひと通り経験してもらった上で、本人の適正と志望を加味して配属を決めています。

場を盛り上げるノリの良さもアイデアにつながる大切な要素

多摩美出身者の特徴としては、明るくてノリがよく、コミュニケーション能力に長けている方が多い印象です。演出チームとの打ち合わせの際に明確なビジュアルのイメージや具体的な要望を提示されることは稀で、「明るく楽しい感じで」というようなざっくりしたオーダーを受ける場合がほとんどなので、相手の心を引きつける提案資料を作るための推進力も求められますし、トレンドに対する嗅覚の鋭さも重要になってきます。エンターテインメント系の映像美術ですし、打ち合わせで盛り上がったところからアイデアが出てくることもよくあるので、物事を多角的に捉える目を持ち、会話のキャッチボールを円滑にできる人材が望ましいですね。


想像と妄想の翼を広げて音楽番組のセットデザインを手掛ける

浅田 一花さん
浅田 一花さん

2013年|工芸卒

株式会社日本テレビアート
コンテンツデザインセンター
美術デザイン部

年に一度の大型番組『Best Artist』や『MUSIC DAY』、レギュラー番組の『MUSIC BLOOD』といった、音楽番組などのセットデザインを担当しています。ディレクターが求める空間と、いらっしゃるゲストにどうマッチするかということを尊重してデザインしていますが、私の仕事は自分だけで完結するものではなくて、照明さんがかっこよくライティングしてくださったり、カメラさんが現場で魅力的に撮ってくださったりして初めてセットが生きるので、そういう一体感を目の当たりにするとやりがいを感じますね。

デザイナーとは、視界をクリアにするための双眼鏡を渡すような仕事

照明の打ち合わせに参加したり、カメラワークを意識したりして、どんな素材をどう使えば予算内でディレクターの求める世界観を再現できるか模索していくのですが、デザイナーというのは、行き先はわかっていてもその視界がクリアではないときに、横からそっと双眼鏡を差し出すような仕事だと感じるようになりました。そのときに素敵な双眼鏡を渡せるか、安物を渡してしまうかは自分の力量次第かな、と。より良い双眼鏡を手に入れるためには、透明のアクリル板を重ねたらどう見えるかとか、音声さんはセットのどこにスピーカーを置くだろうとか想像力を細やかに働かせることも必要ですし、こんなことができたらいいな、こんな番組があったら面白いなという妄想力を持つことが大切だと思います。

物事に興味を持つだけに留まらず、「好き」の理由を追求し続けてほしい

私が学んでいた工芸学科では、自分の作品づくりにおけるプランニングや、どういうコンセプトで作業を進めるかを発表する場を教授たちがつくってくださいました。当時はやり方がわからず苦しみましたが、試行錯誤した経験が現在の仕事にも役立っていますし、尹熙倉先生(工芸学科教授)がおっしゃっていた「自分の言葉をどんな包装紙に包み、どんなリボンで結んで相手に差し出すかが大事」という言葉を今でも折に触れて思い出します。
学生のみなさんには、好きなことや興味があることを見つけるだけではなくて、なぜそれに自分の心が揺れたのかを考えてみてほしいと思います。視野を広げ、物事に対する客観的な目を養うためにも、「なぜ」を追求し続けてほしいですね。


学生時代からセットデザインを担当。実践的な技術を身につけ即戦力に

山根 茉子さん
山根 茉子さん

2021年|劇場美術デザイン卒

株式会社日本テレビアート
コンテンツデザインセンター
美術デザイン部

今は先輩について研修を受けている最中なのですが、「北海道とイチゴ」をテーマにしたホテルビュッフェのディスプレイや装飾デザインを担当しています。先方から「若い方にデザインしてほしい」とご希望があり、コンペティションに雪と氷をイメージしたデザインを提出したところ、選んでいただきました。

多摩美で磨いたプレゼンテーション技術が自分の強みに

私はもともと音楽を長年やっていて、オペラのオーケストラピットでバイオリンを弾いていたんです。その後自分の適性などを考えて音大を断念しましたが、同じく大好きだった美術と音楽が関わる分野に携わりたいと思い、劇場美術デザインコースに進みました。
劇団扉座の本公演の美術を金井勇一郎先生(演劇舞踊デザイン学科教授)が手掛けられていたご縁で、2年生のときに研究生公演の美術を多摩美生が担当する機会があり、デザインを描いて図面を見せてというプレゼンテーションを経て初めてセットを描かせていただいた経験が糧になっていますね。3、4年生のときには同じくコンペを経て、学科の卒業公演の美術プランナーを担当しました。技術的なことはもちろん、効果的なプレゼン方法を模索し、演出家の要望に沿ってアプローチの形を変えられる柔軟性を身につけられたことは今でも大きな強みになっています。

タマリバーズは学びながら実地経験を積める絶好のチャンス

デザインのみならず、照明や衣装など他のセクションにもひと通り触れる機会に恵まれました。テレビも舞台もすべての要素が重なってやっと成り立つ業界だということを課題を通して知ることができましたし、何より現役で活躍されている先生方から直接指導していただいたことで、より実践的な技術を身につけられたように思います。
他にもPBL(※1)でタマリバーズ(※2)に2年間、プロジェクトの企画書作成で携わっていたのですが、二子玉川ライズの方と意見交換を重ねたことがとても勉強になりました。学生のうちから実地経験ができますし、学年を超えて仲良くなることもできる絶好のチャンスなので、ぜひ参加してみてほしいですね。

※1 PBL・・・Project Based Learning科目。所属学科や学年の枠を超えて、横断的研究や社会的課題に取り組むプロジェクト型授業のこと。
https://www.tamabi.ac.jp/dept/pbl/

※2 タマリバーズ・・・世田谷区に二子玉川ライズが開業した2011年からほぼ毎年開催している、二子玉川ライズと多摩美術大学による地域連携アートプロジェクト。企画の立ち上げからコンセプトの設計、脚本、演出、衣裳、小道具、さらにWEBコンテンツやポスター等のメディア展開に至るまで、学生が主体となって実施している。

グラフィックデザイン部の新人研修で作成した、雑誌の表紙風の自己紹介ポスター。山根「大道具をやっていたので力強いポーズを取ってみました」