キヤノン株式会社

デザイナーのみならず商品企画から
人事に至るまで卒業生が活躍

デジタルカメラやインクジェットプリンターなど、高いシェアを誇る製品だけではなく、「商業印刷」「ネットワークカメラ」「ヘルスケア」「産業機器」と、BtoBへ事業領域を広げる電気機器メーカー。
https://canon.jp/
取材日:2018.06.11

総合デザインセンター 課長
柏木 直人さん
1989年|グラフィックデザイン卒

社会のビジネスシーンの
あらゆるところで
通用するのが多摩美の学び

総合デザインセンターでは、キヤノンブランドの全製品を手掛けているため扱う製品の幅はとても広くなります。そこで大切にしているのは、「ユーザーを理解する」ということです。カメラを例にとると、プロカメラマン、写真愛好家、子どもを撮る主婦の方などさまざまなニーズがあります。また、日常を撮って楽しむ“カメラ女子”が登場したように、時代やモノの変化に従ってその用途や意味も変わります。「その人はどういう志向でこのカメラを持つのか?」と、相手を理解するところからデザインを考えることに軸足を置いています。

多摩美に入ったからって何も美術だけが仕事じゃない

キヤノンのデザイナーは、美大卒者と工学部系デザイン科卒者とがおよそ半々くらいの比率で在籍しています。その中で多摩美卒業生の特徴として感じることは、バランス感覚に優れていることですね。デザイナーとして入社した人がデザイン以外の分野で活躍する例も多く、実際にプロダクトデザイナーとして入社した人が現在は他部署で商品企画を担当するなど、汎用性があるのです。かく言うデザイン人事を担当している私も、実は多摩美の出身(笑)。広報宣伝や会社の経営監理など、デザイン以外の部署も複数経験して今に至ります。多摩美では、社会の中でデザインという領域がどこにあるか、ただ美しいだけではなく、これが世の中に受け入れられるかという視点で学びました。これが生きているのでしょう。先輩として後輩に伝えるならば、多摩美に入ったからって何も美術だけが仕事じゃない。今ビジネスシーンで「デザイン思考」が重視されているように、社会のあらゆるところで通用するのが多摩美の学びです。ステレオタイプに考えずに、より良い活路を見つけてほしいですね。

積極的に高望みするようなスケール感のある人に

私たちの時代には先進だったデジタル機器やネットワークの環境はいまや当たり前のもので、5年後、10年後とさらに環境は変わることでしょう。これからの消費者層の中心は、子どもの頃からスマホに慣れ親しんだ世代。そういう意味でも、ユーザーを背景から理解することが課題なのです。当社の事業は、カメラづくりから始まりその領域を広げてきたように、変革が原動力。目まぐるしく変化する時代の中で、結果を怖がらず新しいことにチャレンジできる人を求めています。多摩美に限らず、今の学生は身の丈を測りながら思考や行動をするところもありますが、もっと積極的に高望みするようなスケール感のある人を望んでいます。

総合デザインセンター
松木 愛華さん
2014年|グラフィックデザイン卒

根気強く作り込む姿勢が、
入社後の「精緻なものづくり」
につながった

パッケージやロゴマークのデザイン業務を経て、今年度から新製品のプロモーション映像などを手掛けています。8人のチームで、映像内に使われるグラフィックや、2D的に動くモーショングラフィックなどを担当しています。スケジュール管理を行い、限られた時間内で取捨選択しながら作ることが学生時代との大きな違いです。またチームでの分担作業が多いので、データの作り方など誰もが共有できミスが起こりにくい方法を模索しながら制作しています。自分が手掛けた作品が、世界各地で見られていると思うと、責任重大でやりがいがあります。

自分と向き合い、「これだけは」という強みを見つけた

3年生の時、先生に「これだけは誰にも負けないというものを見つけ、それを形にしてから持ってきなさい」と言われました。50〜60人いる優秀な学生たちの中でそれを見つけるのは本当に難題です。でも、学生時代はトライアンドエラーを重ねる時間はありましたので、とにかく自分と向き合い、「これだけは」を見つけることができました。私は人よりも緻密なものや造形を作り込む作業が得意だと気付き、それを追求し自分の強みとして形にすることができたのです。このように自分の強みや弱みを理解し、洗練させることができたのは、多摩美で得た一番の力です。他にも、情報集約のさせ方、視点、優先順位、アウトプットの手法や伝え方など、仕事のふとした瞬間に多摩美で学んだことや先生方の言葉を思い出します。

基礎力は、没頭できる学生時代でしか得られない

就活を始めた時は代理店や制作会社を考えていましたが、先生の勧めで参加した当社の説明会で、多摩美OBの方のお話がとても魅力的に感じられて心が決まりました。キヤノンでは「精緻なものづくり」という姿勢を大切にしているのですが、根気強く作り込む姿勢は、多摩美で培い得意とするところです。後から習得できるスキルと違って、描く力や観察力、表現力といった基礎力は、それに没入する時間がある学生時代でしか得られません。私はそうした環境と先生方の教えの中から、基礎力をつけ、自分の支柱を見つけることができました。ぜひ後輩の皆さんにも、そういった支柱となるものを見つけてほしいですね。

主にグラフィックの部分を手掛けた、大判インクジェットプリンターのプロモーション映像。
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総合デザインセンター
専任主任
関 尚弘さん
1997年|プロダクトデザイン卒

多摩美で得た
可視化する力は、
すべての領域をつなぐ翻訳作業

デザイン部のチーフとして、現在は主にプリンターを担当しています。これからのAI時代、確実に組織や働き方が変わります。その時はおそらくプリンターの用途すら変わってくるでしょう。機能や見た目だけでなく、「存在のあり方」からデザインするというのが私たちの課題です。

自分に足りないものを知るために海外へ

私は小学生時代にルイジ・コラー二氏がデザインしたミニカーに魅せられ、プロダクトデザイナーを志しました。ところが、進学した中高一貫校の教員は誰も美大進学の知識がありません。そこで自分で一つひとつ調べながら、念願の多摩美に入学することができました。目的を持たずに大学へ進学した友人には、「お前はやりたいことが自分でわかっていていいな」とうらやましがられたことを覚えています。卒業後、いったんはデザイン会社に就職しましたが、世界に出たいという思いが拭えずロンドンの美術大学院に留学し、卒業後に現地で就職してデザイナー経験を積んで、今に至ります。海外経験のある同級生や外国人講師との交流の中で、自分に足りないものや日本と海外のデザインの差を知りたくなったんですね。実際に世界に出てみて、海外の学生のアグレッシブさに、多くの刺激を得ました。

何を選択しどう答えを導き出すか?

多摩美時代、「A先生には絶賛されたが、B先生にはダメ出しされた」といったことが日常的にありました。一見戸惑いますが、世の中においては当たり前のこと。何に対し評価されているのかをよく突き詰め、自分の意図を伝えきれているか、次に進むにはどうするか、それを考えることが重要なのです。表現力に加え論理的な思考力、伝える必要性、そして徹底的に考えて自ら答えを出すことを学びました。海外での経験や、さまざまな専門分野の方と協働でプロジェクトを進める現在の業務のなかで、可視化する力はすべての領域をつなぐ翻訳作業だと実感しています。答えはひとつではない世の中で、何を選択しどう答えを導き出すか? 多摩美の学びを糧に、「次世代の働き方から導き出されるデザイン」を模索しています。

関さんが担当した『キヤノン インクジェットプリンター PIXUS TS5030』。設計者を巻き込みながら、理想的な造形を目指して何度も試作を重ねた。
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※掲載者の所属などは記事公開時のものです。