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建築などを学ぶ環境デザイン学科が主催「安藤忠雄 特別講演会」開催レポート


7月2日、日本を代表する建築家の安藤忠雄さんによる特別講演会を行いました。本学で建築・インテリア・ランドスケープを教える環境デザイン学科研究室の主催によるもので、世界を舞台に活躍する安藤さんの建築作品やその思想に直にふれ、大きな示唆を得てもらいたいと企画したものです。安藤さんは、自身の経験や影響を受けた人々、手がけた建築作品などを数多く紹介する中で、これからの時代を生きるために必要な力についての持論や、日々激しく変化する世界でどう生きていくかといったビジョンを織りまぜながら、これから社会に出る学生たちに向けてエールを送りました。会場には本学の学生ほか300人を超える聴衆が集まり、安藤さんの迫力ある熱のこもった講演にじっくりと耳を傾けました。

今日の講演を「自分の方向性を見出すきっかけにしてほしい」

安藤さんは、日本建築学会賞やプリツカー賞、フランス芸術文化勲章など、国内外で数多くの受賞歴を持つ日本屈指の建築家です。講演ではまず、自立することの重要性について俎上に載せ、今日の講演を「自分が何に向いているのか、何がしたいのか、その方向性を見出すきっかけにしてほしい」と話しました。また「私は大学にも専門学校にも行っていないが、意地でも建築家になってやると思い、必死で勉強した。自分の教育は自分で行うもの。誰にでも可能性はある」「建築家がどういう思想で建物をつくるのか、キャンパス内にある建物を見て考えるだけでも勉強になる」と、熱く聴衆に語りかけました。

その後、世界中を旅した20代の頃の経験や、これまでに手がけた「住吉の長屋」「光の教会」などの代表作、携わったプロジェクト、影響を受けた先人たちやその作品などを数十枚のスライドで紹介。一枚一枚にテンポよく解説を加えながら、安藤さんがそれらを通じて感じた、これからの時代を生きていくための必要な力について持論を展開されました。何が大事かを見極める力、何が面白いのかを瞬間的に察知する力などが挙げられる中、1980年代後半に福武總一郎氏がベネッセコーポレーションの芸術文化支援活動の一環としてはじめ、安藤さん自身も参画している直島文化村プロジェクト「ベネッセアートサイト直島」にも話が及びました。

ユーモアあふれる巧みな話術に、会場は笑いで包まれる

福武氏は『世界中のどこにもないものをつくりたい』という思いから、全財産をつぎ込み、瀬戸内海に浮かぶ小さな島・直島を、現代美術に関わるさまざまな活動の拠点としました。その情熱にひっぱられたと話す安藤さんは、このプロジェクトの全体設計を担当したほか、1992年にベネッセハウスを建設、99年には直島の古民家を改装し、空間そのものを作品化する「家プロジェクト」にも参加しています。福武氏の行動力や発想力、持続力はこれからの時代にも求められる力であると述べ、さらに、そこに絵の具があれば描かずにはいられない絵描き特有の習性を利用し、海外からアーティストが来るたびに宿泊する部屋に絵の具を置く福武氏の「相手の性格を読み取る力」を称賛しました。関西弁でユーモアにあふれた安藤さんの語り口に、会場からはたびたび大きな笑い声があがっていました。

自分がこれからどう生きるのか、地球全体で考える

感性を磨くこと、友達を多く作ること、海外に出ること、興味を持ったことはとことん調べること、次の手まで考えること―。数々の金言が怒涛の勢いで放たれた講演の締めくくりに、安藤さんは「これからは次の時代の日本のことだけではなく、地球全体を考えていく必要がある。その中で生きていくためには、『科学』『技術』『アート』のどれかしかない。自分はその中のどれを受け持つのか、しっかりと考えた上で決めなくてはならない」とし、また「自分たちが生きている範囲をデザインすることが、これからのあなたがたの仕事。自分の能力を知り、自分の価値を高め、自信と誇りをもって生きていってほしい」と力強く話しました。

講演後には質疑応答の時間が設けられ、学生たちからの質問に快く応じられる中、「とにかく一歩前へ出ること。蹴られるかもしれない。蹴られてもいい。自分がやりたいことをやったとしても、みんながみんな賛成するわけではないが、しかしそれでも自分が信じた道を行くしかない」とエールを送りました。情熱、生命力、疾走感にあふれた1時間で、そうとは思えないほどの情報量があり、安藤さんの思考スピードの速さを、身をもって体感するような講演となりました。世界の第一線で活躍する安藤さんの言葉に、聴講した本学学生たちも大きな刺激を受けたようでした。

安藤忠雄 氏
300席を超えるホールが満員に
講演後には学生の質問にも応じてくれました